現実と理想の狭間で〜ロンドンの日常

イギリス・ロンドン在住の20代。ロンドンで出会った夫と二人暮らし。芸術と旅行好き。本を楽しみたい。

トゥルゲーネフが最も愛した自著『初恋』

小さい頃からバレエとクラシック音楽を通してロシア文化に深く親しんできたのと、主人がロシア人ということでロシア語を勉強中のため、やはりロシア文学は特に興味があるジャンルである。ロシア文学というと、トルストイドストエフスキーが一番に頭に浮かぶし、それらは海外文学の中で世界的に認められている本であるとと同時に、難しい、とっつきにくいイメージがある。そのため、私の読書ジャーニーでは勝手な目標として「いつかドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』を楽しみたい」と思っている。

ある意味、その第一歩として、大人になってから初めて読むロシア文学(学生の頃「戦争と平和」を少しかじった)にトゥルゲーネフの『初恋』を選んだ。題名がシンプルで、イメージがつくのと、ロシア文学にしては短いのが理由だ。

 

読書記録

タイトル:『初恋(Первая Любовь)』

著者:イワン・ツルゲーネフ(Ивáн Серге́евич Турге́нев)

出版社:光文社

フォーマット:Kindle Unlimited

読書期間:2025/09/19-2025/09/22

 

話は主人とセルゲイ、ウラジーミルの3人がそれぞれの初恋について語り合う場面で始まる。主人は妻との話、セルゲイは小さい頃の乳母に関してを話すけど大したことないとすぐ話が終わる。ただ、ウラジーミルは自分の初恋はありきたりなものではないといい、口下手なので話せないけどよかったらノートに思い出せる限り書いてくる、といって実際に書いてまとめたものがこの小説、ということになっている。

個人的に、ジナイーダは魅力的なんだろうけれど人の心を弄ぶ魔女のような女だと思ってしまう。だが、彼女を取り巻く男性陣(伯爵、詩人、軍人、医者)はほとんどが彼女との結婚や未来を望んでいるわけではなく恋しながら楽しんでいるという感じだから、ある意味現代のアイドルのオタ活のような感覚のかもしれない。ロシアで昔は貴族の間でフランス語が使われていたのは知っていたが、こんな感じなのか、と読みながら時代背景を学ぶことができる。フランス語が上流階級で使われロシア語は田舎くさいとすら思われていたそうだから、フランス語が得意じゃないなどそういう描写が出てくるとそれで人の育ちや品格を図っていたようにも見える。

優しい微笑みをくれる時もあれば凛として相手にしてくれない時もあるジナイーダと、主人公のお父さんの息子に対する対応が似ているし、その両方に憧れを持って夢中になってしまう主人公ウラジミールのある意味彼の好みが見える。そして、お父さんが楽しそうにウラジーミルが隣の家で何を指定かを聞いているという場面で、もしかしたらジナイーダとお父さん?と思っていたら予感が当たった。自分は結婚している身で、息子が好きな女性と知りながら、若い女性をたぶらかすお父さんに引いてしまう。そんな彼ら(父とジナイーダ)のことをショックを受けながらも敬い愛し続けるウラジーミルも哀れというか、ばかというか。

初恋、とはこんな苦いものなのか、なぜそんな人に思いをこがれるのかなんて思ってしまうけど、人として何か欠陥があったり恋愛関係の間に障害がなければ、小説にはならないだろう。

解説で、ツルゲーネフが個人的に似た経験をしてそれをもとに小説を書いたということで驚いた。彼の父も財産目当てで母と結婚したとのこと、若い頃に初恋の相手がいたこと、モスクワからペテルブルグに移って割とすぐ父を亡くしたこと、など共通点がたくさんある。彼自身、夫のある人と長年付き合って恋人をしていたとのことで、この時代のロシアの上流階級では、結婚と愛があまり結び付かず、結婚と金、愛は外で、という感じが受け取れる。

個人的にもっとも印象に残った文章が父が死に際にウラジーミルに言うこの言葉である。

「息子よ、女の愛には気をつけるように。女の愛がもたらす幸にも毒にも気をつけるがいい。」

美男子で優雅に落ち着いていて、自信があるウラジーミルの父が、そういうくらいですからジナイーダは特別な人だったのだろうが、これはウラジーミルの回想なので、読者は父とジナイーダの間の関係について深く知ることができないのが残念でもあり、安心する気持ちもある。

 

 

ここまで読んでくださりありがとうございます。🎵

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