アマゾンの本のおすすめでいつも見かけて、カバーの素敵なカラフルな花のイラストレーションに惹かれて読むことにした作品『アルジャーノンに花束を』。川端康成の『雪国』を読んだ後、気分をガラリと変えて、もうすこし話の展開がありそうな、また、舞台拝見が全く違う海外小説を読もうと思ったのもきっかけだ。
一昨日の夜に読み終えて、読み終わった後の余韻はすごかった。いろいろ感じたことを語りたいのに、さまざまな感情が入り混じっていい言葉が見つからない、そんな感じだ。この読書備忘録もおそらくまとまりのないものになりそうだが、どうしても自分の言葉で、読み終わった今どんなことを感じたのかを残しておきたい。
読書記録
タイトル:『アルジャーノンに花束を』/"Flowers for Algernon"
著者:ダニエル・キイス/Daniel Keyes
フォーマット:Kindle
読書期間:2025/08/27-09/03
舞台は1950年代ニューヨーク。この本は、主人公チャーリーが書いた日記調で最初から最後まで書かれている。正確には、彼自身を使った実験の”経過報告”である。チャーリーはパン屋で働く32歳の”男の子”で人工知能(IQ)が68しかない。年齢は32歳でも知能は通常の小学生くらいであり、まわりもチャーリーを子供のように接している。彼は、とても温かい心を持ち、人が大好きで、かしこくなりたいと言う向上心を持っている。そこで、これまでにねずみにしかやったことのない、知能をガクンと向上させる最新の実験を初めて人にやることが決まり、その実験台としてチャーリーが選ばれる。実験の一環で、どのようにチャーリーの知能が変化していくかを理解するために書くことになったのが、この経過報告というわけである。
彼はもちろん文章を書くのも得意じゃないので、最初はとても読みにくい。日本語の翻訳版では、ほぼひらがなが使われており、漢字は間違っていたりする。読み始めたばかりの時は、この壊れた日本語で何ページも読み進めるのに疲れて少しずつしか読み進められなかった。でも、手術のあと、徐々に書き方と内容が変化していく。ただ知能を向上させただけではなく、研究室はチャーリーに多くの本を読むことを進める。彼は研究室がある大学の図書館に通い詰め、有名な古典文学から論文まで多岐にわたって読み漁る。最初は一緒に働いているパン屋のメンバーのようにかしこくなりたいと思っていた、また、そこの大学生と芸術や政治や宗教について議論をし合いたいとも思っていたが、そのうちそこにいる誰よりも知識と理解を得たチャーリーは他の人と議論するのがつまらないと感じるようになる。
最初の2割は、チャーリーの賢くなるぞ!という向上心と期待感で結構ポジティブな雰囲気がある。しかし、だんだんチャーリーが賢くなると、まわりのチャーリーに対しての態度が実際はどんな意味を持つのかなどを理解し始めて、それがかなり心が痛むものだった。また、他の誰よりも高い知能を得ると、他の人と理解し合えないその虚しさと孤独感、知的障害の当事者だったはずの自分が知的障害と思われる人に対して抱いた気持ちや笑いに自分で気づき嫌気を指すなど、だんだん暗い雰囲気が漂う。
後半に差し掛かったあたりで話に最も引き込まれた。心に深く残ったのは、家族に会いにいく場面。まず、お父さん。そして、お母さんと妹。チャーリーと家族の関係性はこの本でとても大事な要素だ。チャーリーが知的障害だということを受け入れられないお母さん、妹が生まれてから諦めたが、妹に悪影響を与えないようにチャーリーから離したがる。でも、チャーリーがお母さんに認めてもらいたい、気にして欲しいと思っていることを思うと心が傷む。最終的に妹との誤解が解けて、話し合えたのが私の中で一番の救いだった。これらのシーンは頭の中に映画のように想像できて、年月の怖さ、違う環境からの視点と誤解の怖さをいろいろ感じた。妹と分かり合えた場面は私の最も好きなパートかと思う。ある意味、誰が悪者で(母)誰が味方だったかもしれないというのがわかってすっきりした気がする。もちろん、母も完全な悪ではないのだが。
読み終わった今は、悲しみ、虚しさ、仕方ないと思う諦め、残念な気持ちと同時に安堵感、あたたかさ、いろんな感情が入り混じってとても複雑な気分。主人公のチャーリーことを考えると、彼の愛らしさ、暖かさ、無知ゆえの純粋さ、好奇心と、向上心、諦めない心、ポジティブさ、周りへの感謝、めげない強さ、白痴で生きるのが難しくても、普通の大人が歳を重ねるとともに失ってしまう素晴らしい要素を持ち合わせている人間だと思う。
そして、手術が成功してどんどん頭がよくなっていろいろなことがわかってくる時の喜ばしい期間、でも長くは続かない。あまりに頭が良くなりすぎても、人と分かり合えない、楽しいと思っていたものが楽しくなくなったり、好奇心をそそられたものが魅力がなくなってしまったり、ある意味である程度のバカらしさ、単純さって大事だなと感じた。チャーリーの良さが彼が最も頭脳明晰になった時期は失われてしまったのでその時は残念で、少し本を進めるのも遅くなった。
最後はチャーリーに対して悲しい目で読みたくない気持ちで、暖かく送り届けるつもりで心を整えようとしながら読み終えた。発達障害、精神病、愛、歪んだ家族愛、友情、本気の愛、ただ欲を満たす愛、他人からの目を気にする人、自分の成功のために自己中な人、頭脳、いろんなことが複雑に絡み合ったすごくいろいろ考えさせられる本。個人的評価は自信を持って星5です。読んでいない方はぜひおすすめします。
少し読み終わった後の気持ちは重いので、気楽に気持ち明るくなる本を次は読みたいです。

