先週から読書習慣を始めたばかりだが、ものすごく久しぶりに読む海外著者の小説。ここ1週間で村田沙耶香著『コンビニ人間』と川口俊和著『コーヒーが冷めないうちに』の日本人作家による2作品を読んだので、次は海外作品に挑戦しようと選んだのが、どこかのおすすめに出てきたブラジル人作家パウロ・コエーリョ著・山川鉱矢+山川亜希子訳『アルケミスト 夢を旅した少年』。単行本で200ページほどと、あまりボリュームがないのも読者初心者の自分にとって挑戦しやすいと思った。アマゾンによるとベストセラー#1でノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイさんが大絶賛している本だということだ。
「希望に満ちていて、元気をくれるから。宝物を探して旅にでる少年の話で、旅の途中で出会ったすべての人たち、すべての局面から、少年は多くを学んでいきます。物語の最後、少年が宝物を見つけたのは、とても意外な場所。自分を信じること、自分の旅を続けることの大切さを教えてくれる本です」
――ノーベル平和賞受賞 マララ・ユスフザイ
主人公はサンチャゴという少年で羊飼いをしている。彼の人生の目的は旅をすること。彼はすでに二年間羊と一緒に生活し、食べ物と水を求めてスペインのアンダルシア田舎を歩き回っていた。少年は羊が自分が話すことを理解できると思って話しかけたり意見を聞かせたりした。少年は16歳まで両親が彼を神父にさせようと、神学校にいたため、ラテン語とスペイン語を読める。一冊の本を持ち歩き、旅先で新しい本に交換して読んだ。
話の冒頭、少年は羊を連れて見捨てられた教会に着く。その教会のかつて祭壇があった場所には一本の大きないちじくの木が生えていた。その夜、彼は一週間前に見た夢と同じ夢を見る。その夢では、1人の子供が現れて少年の羊と遊んでいて、その子は少年の両手を掴むとエジプトのピラミッドに連れて行き、『あなたがここにくれば、隠された宝物を発見できるよ』と言う。それから少年の、スペんインの海沿いの街からエジプトに向けての大冒険が始まる。
主人公は羊飼いをしているが、本を読むことが好きで知的な少年で、羊飼いになった経緯も、もっと広い世界を知りたいと旅をするために自分で選んだ、強い意志を持った人物。この話はただの少年の冒険を綴る小説ではなく、少年が旅をしながらあらゆる人に出会い、それぞれの葛藤を聞き、自分の学んだ神に関する知識とアフリカのムスリムの精神を学び、自分の精神を鍛え、精神的に成熟していくある意味、自己啓発的な内容が散りばめられている。子供でも読める文章や描写でありながら、結構内容は深くて大人でも楽しめるし、本に入ったメッセージを私も全てを完全に理解したかはまだわからない、そんな感じがする。
いくつか気に入った場面をメモしておく。
船乗りや、行商人たちと同じように、羊飼いもまた、自由な旅の喜びを忘れさせる誰かがいる町を、いつか必ず見つけることを、知っていた。
愛する人を見つける、もしくは、結婚する相手を見つけることを言っているが、”自由な旅の喜びを忘れさせる誰かがいる町を、いつか必ず見つける”というのが、とても素敵な言い回しだと思った。
同じ友人といつも一緒にいると、友人が自分の人生の一部となってしまう。すると、友人は彼を変えたいと思い始める。そして、彼が自分たちの望み通りの人間にならないと、怒りだすのだ。誰もみな、他人がどのような人生を送るべきか、明確な考えを持っているのに、自分の人生については、何も考えを持っていないようだった。
彼は彼が羊飼いとして尋ねたあちこちの町に友達がいるとのことで、だけど一年に一度くらいしか会わないのは、この理由だという。これは、現代の友人関係やどんな人間関係にも言えることかもしれない、と思う。
「息子よ、世界中から旅人がこの町を通り過ぎていったではないか」と父親が言った。「彼らは何か新しいものを探しに来る。しかし、帰る時も、彼らは基本的には来た時と同じままだ。彼らは城を見るために山に登る。そして、私たちが今もっているものより、昔の方が良かったと、結論づけるだけなのだ。彼らは金髪だったり、肌の色が黒かったりもする。だが、ここに住む人たちと、基本的には同じ人間なんだよ」
これはサンチャゴの父が、サンチャゴが自分は神父になりたくない、自分は旅がしたいと、父親に伝えた時の答え。一般的な人は、誰かが反対の意見を発した時にその意見に頭ごなしに反対することが多い気がするが、サンチャゴの父は賛成も反対もせず、淡々と彼の息子が自分で言っていることを理解しているか、どのようなことなのか、を父の目線から伝えているようで、かっこいいなと思った。このセリフだけではなく、この後に、「旅人たちは私たちの土地を見て、自分もずっとここにいたいいうんだよ」「ここに旅する人たちは、とてもたくさんお金を持っている、私たちの中まで旅ができるのは羊飼いだけだ」と説明した後に、それでもサンチャゴが羊飼いになって旅をすると、言ったのを静かに応援する父がすごくかっこいい。
少年は風の自由さをうらやましく思った。そして自分も同じ自由を手に入れることができるはずだと思った。自分をしばっているのは自分だけだった。
自由をしばっているのは自分だけ、これはほとんどの場合そうなんじゃないかな、と思う。たとえば、自分でビジネスをしたいけど失敗のリスクが怖くて踏み出せないとか、仕事を辞めて旅をしたいけど安定した生活とおさればするのがこわい、周りの人からどう見られるかが気になるとか。もちろん、守らなくてはいけない家族ができた場合などは別かもしれないけれど、大人っていろんな理由をつけて自分自身を縛っている気がする。少年は、周りに現れる人たちにも助けられながらその葛藤に打ち勝って夢を目指して旅をする。
「宝物を見つけるためには、前兆に従って行かなくてはならない。神様は誰にでも行く道を用意していて下さるものだ。神様がおまえのために残してくれた前兆を、読んでゆくだけでいいのだ。」
これはこの本の全体を通してなんどもでてくる文章で、この本にとって”前兆”がすごく大事な要素
「おまえさんはガラスをみがかなくてもよかったんだよ」と彼が言った。「コーランには、おなかのすいた人には食物を与えよと書いてあるのだ」。
サンチャゴがタンジェでお世話になるクリスタル商人の言葉。彼はとても信仰の深いムスリムで、私が最近行ったUAEとサウジアラビアで旅行をしながら学んだイスラム教について、思い出させられた。
もしわしの夢が実現してしまったら、これから生きてゆく理由が、なくなってしまうのではないかとこわいんだよ。
クリスタル商人の言葉。彼の若い頃の望みは、お金を貯めて店を始めメッカに行くことだったが、まだ行ったことはないしこれからも行かないだろう。メッカを思うことで全く同じ毎日を繰り返して生きていける。夢が実現してしまったら、これから生きていく理由がなくなってしまうのではないかとこわい。これって、ずっと楽しみにしていた休暇の最終日とか、好きなドラマの最後のエピソードとか、そんな大したことない日常にも似たような感情が出てくる気がする。ムスリムの人たちにとって、メッカに行くことは一生に一度の一大行事であるから、それに対する思い入れは相当なものだろう。だけど、夢はつねに持ち、ある夢を叶えたらさらなる夢を持ち、大きな夢でだけではなく小さな目標や挑戦を続けていくことで人々は生きる意味を失わないようにしなければいけないんじゃないか、と思わされた。だって、たった一つの大きな夢を実現してしまうのがこわいから、一生達成することなく人生を終えてしまったらすごく寂しいと思う。
この世には、誰もが理解する一つのことばがあるということだった。少年が店でものごとをもっとよくしようと思った時、ずっと使っていたことばだった。それは熱中するということばであり、愛と目的をもってものごとを達成するということばであり、信じていることや、望んでいることを追求するということばでもあった。
「人が本当に何かを望む時、全宇宙が協力して、夢を実現するのを助けるのだ」
偉大なる錬金術師(アルケミスト)の言葉。本当に強く望めば、運命が自分を導いてくれる、とても心強い言葉だと思う。この本の1番強いメッセージかもしれない。
人は、自分の一番大切な夢を追求するのがこわいのです。自分はそれに値しないと感じているか、自分はそれを達成できないと感じているからです。永遠に去ってゆく恋人や、楽しいはずだったのにそうならなかった時のことや、見つかったかもしれないのに永久に砂に埋もれた宝物のことなどを考えただけで、人の心はこわくてたまりません。なぜなら、こうしたことが本当に起こると、非常に傷つくからです」
「私たち人の心は、こうした宝物については、めったに語りません。人はもはや、宝物を探しに行きたがらないからです。私たちは子供たちにだけ、その宝物のことを話します。そのあと、私たちは、人生をそれ自身の方向へ、それ自身の宿命へと、進んでゆかせます。しかし不幸なことに、ごくわずかの人しか、彼らのために用意された道──彼らの運命と幸せへの道を進もうとしません。ほとんどの人は、世界を恐ろしい場所だと思っています。そして、そう思うことによって、世界は本当に恐ろしい場所に変わってしまうのです。 ですから、私たち人の心は、ますます小声でささやくようになります。私たちは決して沈黙することはありませんが、私たちの言葉が聞こえないように望み始めるのです。自分の心に従わないばかりに、人々が苦しむのを、私たちは見たくないからです」
子供の時は心が純粋で、夢を追いたいと思っているのに、大人になるにつれ何かを失うことへの恐怖や、リスクを恐れ、夢を追うことを忘れてしまう。何かを成し遂げるためには壁が立ちはだかり、リスクを伴うかもしれない、けれどそれを乗り越えて夢を追わないと、夢を達成できずに後悔を残した人生になってしまう。
小説の後半のほとんどは、少年と少年の心、少年と、砂漠、風、太陽などの会話で、ある意味簡単に理解するのが難しく感じた。Kindleにマークしたハイライトを見返しながら、あちこちのページを見返して、どんなメッセージを持っているかをゆっくり考えながら、このメモ(本レビュー?)を書いてみたら、読み終わったばかりのときより深く内容を消化できた気がする。
本のボリュームと読み始める前に思った印象にくらべて、この本はとってもとっても深い内容があるので、そんなメッセージを知りたい人におすすめの本だ。
KADOKAWAからこの本を題材にした漫画もでているようなので、違う機会に読んでみたいなと思う。
