現実と理想の狭間で〜ロンドンの日常

イギリス・ロンドン在住の20代。ロンドンで出会った夫と二人暮らし。芸術と旅行好き。本を楽しみたい。

大切な人に気持ちを伝えたくなる本『コーヒーが冷めないうちに』

私はまだ読書を習慣にするために毎日本を読み始めてから日が浅いので、読む小説はレビューを見てなるべく読みやすそうな、あまり長すぎない、そして世界で愛されているものを選ぶことにしている。川口俊和著『コーヒが冷めないうちに』は"Before the Coffee Gets Cold"と訳され、イギリスの本屋でもベストセラーとして見かけるので、外れることはないだろうと、選んだ次第だ。最近日本の映画を追えていないので知らなかったが、映画化もされていたらしいので機会があれば見てみたい。

この本には同じ舞台と登場人物の話がつながっている短編『恋人』『夫婦』『姉妹』『親子』の4つが入っている。舞台は、地下にあるレトロな喫茶店「フニクリフニクラ」で、基本的に舞台がそこから移動することはない。その喫茶店には、過去に戻れるという伝説があるが、複雑で面倒くさいルールが何個も存在し、実際に過去に戻ろうとする人はほぼいないという。

私は昔から時間移動要素が入ったファンタジーが苦手で、時間移動の時に生じるであろう矛盾などに少し気が散ってしまって感情移入できないことがよくあるのだが、疑問に思う要素はありつつも、この小説は心に訴えかけてきて、特に最後は涙を止められなかった。登場人物がそれぞれ違う性格でありながら、とても綺麗な邪悪さがない清らかな心の持ち主で、読みながら自分の心が洗われるような気がした。

プライドが邪魔をして言いたいことを恋人に伝えられなかった女性、読み書きが元々苦手でそれを恥ずかしく感じてせっかく思いを書いた手紙を妻に渡しそびれてしまった男性。勝手にこう思っているだろうと決めつけて会って話を聞こうとしないまま会えなくなってしまった姉妹、元々病弱でお腹にいる子を産めても自分の体がもたずに育てることができないとわかっている女性。話は登場人物がやり残してしまったこと、できなかったこと、後悔をベースに成り立っている。いつ何が起きて大切な人に会えなくなってしまうかはわからない、だから、伝えられるうちに気持ちを伝えておくべきだと、そんな当たり前のことを改めて教えられた気がする。個人的には『夫婦』が1番お気に入りだ。多くの言葉を交わさずとも、お互いをとてもよく理解していて、思いやる心を持っている。そして難しい状況の中もポジティブに人生を大切な人と楽しもうとしているのが素敵だ。

話の舞台である喫茶店を中心に、関わる人たちが血は繋がっていなくとも、静かに少しずつ家族のように絆を深めていくのが心温まる。

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